2012年に購入したONKYO TX-NA609で音が出なくなった不具合に関する記録の第2話です。
前回記録で音が出なくなった原因は、BGAタイプのチップであるDSPプロセッサーの半田割れと判断しました(素人判断です)。
そして、今回は「リフロー」という方法で実際に修理を行った顛末を記録します。
前回記録 → ONKYO AVアンプ TX-NA609故障?音が出ない!なぜ?
道具の準備
先ずは道具の準備です。
今回は以下のような道具を準備しました。
- ヒートガン(~600℃、アマゾンで購入)
- 普通のドライヤー(リフロー後の冷却に使用)
- 赤外線温度計(~350℃)
- フラックス(HOZAN H-728)
- 無水アルコール(エタノール)
- スポイト(フラックス塗布 & 無水アルコール洗浄で使用)
- アルミホイル(養生用)
- クッキングシート(養生用)
- 両面テープ、マスキングテープなど(アルミホイル固定用)
- ストップウォッチ(古いiPhoneを使用)
- フレキシブルクリップ(温度計固定用、100均!)
ちなみにヒートガンは、液晶画面で温度設定、温度確認できるものをアマゾンで購入しましたが、実際の温度と一致しているかは、???です。
リフロー時の温度条件
さて、リフローとは部品を実装した状態で部品ごと加熱し、半田を溶かして接合する方法です。
よって、この時の温度と時間の設定がとても重要です。
前回記録で、音が出なくなったONKYOのAVアンプをリフローで修理している動画を海外サイトで見つけたと記録したが、これら動画ではリフロー時の温度条件がよくわからない。
言葉で説明しているのかもしれないが、外国語なので聞き取れない・・・
温度計の表示が映っている動画もいくつかあるが、最高温度が300~350℉程度で、摂氏にすると150~175℃である。
あくまで素人考えだが、一般的な半田の融点を考慮すると、温度が低いような気がする・・・
クリームハンダとか、低融点の半田を使用しているのだろうか???
いろいろ調べたが、結局確実な答えは見つからず、最終的に以下のサイトを参考にさせていただいた。
リンク → コネクタのリフロー実装での温度プロファイル (Panasonic 制御機器知恵袋)
そもそも今回の修理と用途が一致しているのか?疑問なところもあるが、説明がとても分かりやすく、技術的にも納得できたので、このプロファイルに賭けることにしました!
作業開始!その前に練習
早速、作業開始!といきたいところであるが、リフローは一発勝負である。
温度設定ができるヒートガンを準備したが、ヒートガンの設定温度と加熱する相手の表面温度は一致するはずがない。
よって、上記の温度プロファイル通りに作業するためには、ヒートガンの温度設定をどれくらいにすればよいか?
家に転がっていた半田練習用の基板をヒートガンで加熱し、赤外線温度計で測定してみた。
ポイントは、加熱したまま160℃前後(プリヒート)をキープできる温度設定とそこから60秒ぐらいで250~260℃(本加熱)に温度を上げる設定を見つけることである。
準備したヒートガンは、「Low」と「High」をスイッチで切り替えることができるので、「Low」をプリヒート、「High」を本加熱にすることを前提に何度か試してみた。
結果、Low:300℃、High:510℃ 設定で、上記ポイントをクリアできそうなので、これに決定!
(ヒートガンの設定温度と実温度がかけ離れているような気がするが・・・、安物の中国製なので文句は言いません)
下の写真は、練習で焦げた基板です。
修理作業開始!
いよいよ、作業開始です!
まず、天板の取り外しです。
ネジは、左右各3個と背面3個の計9個です。
天板の取り外しは、スライドではなく、前面パネル側を支点に車のボンネットを開けるように90度持ち上げてから上に引き抜きます。
お目当てのDSPプロセッサーは、内蔵ファンを固定しているステーのちょうど真下にあります。
作業の邪魔なのでステーごとファンを取り外します。
背面のネジ2個を取り外し、上に持ち上げます。
筐体のリブを乗り越える必要がありますが、力ずくで持ち上げます。
前面パネル側は差し込まれているだけですが、テープ類が引っ付いているので、剥がしながら引き抜きます。
取り外したら、ケーブルは抜き取らず、邪魔にならないところに寝かしておきます。
ケーブルを基板に固定している結束バンド(1個)は、先に切っておきました。
次にDSPプロセッサーとその周辺を無水アルコールで洗浄です。
チップ下にもアルコールが行きわたるよう、スポイトを使って流し込みながら洗浄しました。
アルコールが乾燥したら、アルミホイルで養生します。
ヒートガンの風で飛んでいかないよう、熱があまりかからない所に両面テープやマスキングテープを使って固定しておきました。
それと写真にはありませんが、基板の下(加熱するチップの下)にクッキングシートを1枚入れています。
最後にフラックスをチップの周囲からスポイトで流し込むように塗布しました(写真撮影忘れ)。
フラックスは、無洗浄タイプのHOZAN H-728を使用しました。
リフロー開始!
そして、リフロー開始です。
一発勝負なので、とても緊張しました。
赤外線温度計は、フレキシブルクリップで固定。
常時測定状態にするため、トリガーボタンをビニールタイで締め付けておきました。
また、ストップウォッチ(iPhone)を視線移動が最小になるような見やすい場所に置き、温度と時間を確認しながら、両手でヒートガンを持って慎重に加熱しました。
結果、下表のとおり、ほぼ予定通りの温度条件で完了しました。
確認できた最高温度は252℃でした。
欲を言えば、もう少しHighの設定温度を上げておいた方が良かったかもしれません(250℃到達までに時間が掛かったため)。
ストップ ウォッチ | 赤外線 温度計 | 工 程 | 操 作 |
---|---|---|---|
0:10 | 27℃ | 昇温開始 | ヒートガンLow |
1:20 | 150℃ | プリヒート開始 | ヒートガンLow |
2:05 | 160℃ | プリヒート継続 | ヒートガンLow |
2:20 | 160℃ | 本加熱開始 | ヒートガンHigh |
3:40 | 250℃ | 本加熱終了 | ヒートガンOFF |
3:50 | 205℃ | 冷却開始 | ドライヤー送風 |
4:00 | 160℃ | 冷却継続 | ドライヤー送風 |
4:30 | 100℃ | 冷却継続 | ドライヤー送風 |
リフロー後のDSPプロセッサーです。
約250℃の高温に耐えた痕が残っています!
※リフローしているところを動画撮影しました。
作業優先で撮影しましたので、かなり見にくいですが・・・
リンク → TX-NA609修理 DSPプロセッサーをヒートガンでリフロー
動作確認
養生を撤去し、十分に自然冷却した後、無水アルコールで洗浄。
いよいよ電源投入です。
「カチッ」と内部リレーが作動し、スピーカーアイコンが点灯しました!
「DEBUG MODE」で「DSP 1st/NET:」の表示も正常です。
「SETUP」画面でグレーアウトしていた項目も復活しています。
そして、仮のスピーカーを接続し・・・、音が出ました!!
ヘッドホンもOKです。
その他、USB、NETなども試してみましたが、オールOKでした!
リフロー成功です!!
再発防止対策
なんとか無事にリフローは成功しましたが、不具合再発の可能性を十分考慮しておく必要があります。
再発の原因は、ほとんどが熱によるものと思われますので、このタイミングで熱対策をしっかりとやっておきます。
まず、リフローしたDSPプロセッサーに大きめのヒートシンクを取り付けました。
チップの大きさは約20mm角ですが、35mm×35mm×10mmのものをアマゾンで購入しました。
さらに念のため、同じ基板上のその他のチップ(DRAMは除く)にも手持ちの22mm角のヒートシンク4個を取り付けておきました。
ちょっと悪ノリだったかもしれません・・・
これで機器単体としての熱対策は十分かもしれませんが、オーディオラックに入れた時の排熱対策として、追加で2連の静音冷却ファン(80mm)を購入し、天板の上に載せておくことにしました。
このファンはUSB電源なので、前面パネルのUSB端子に挿しておけば、電源と連動して回ってくれます。
回転数も3段階に調節でき、Lowにしておけばファン音はまったく気にならないぐらい静かです。
Made in Chinaの安価なファンではありますが、パッケージやマニュアルも含め、とても出来の良い製品で、コスパは高いと思います!
最後におまけで、冷却ファンからの振動対策として天板の裏側に制振シートを貼り付けておきました。
使用した制振シートは、クルマのデッドニングで人気のある積水化学の「レアルシルト(REAL SCHILD)」というもので、以前、マイカーのデッドニングをした際の残りを使用しました。
結構残っていたので、筐体にも貼り付けようかと考えましたが、あまりやりすぎると逆に断熱になってしまうかもしれないので、ほどほどでやめておきました。
天板を取り付けて、修理完了です!
購入した 2連の冷却ファンも天板上に載せました。
お疲れさまでした!
修理後の状況
現在、修理後1週間です。
今までほとんど使用していなかったUSBやNETなどのソースも使用しながら、毎日調子を見ていますが、現時点では問題なく動作しています。
このまま、あと10年ぐらいは耐えてくれることを願っています!
不幸にも、もし再発してしまった場合には、また記事にして報告します。
・2021/12/06追記:2week後 → OK
・2021/12/14追記:3week後 → OK
・2022/01/10追記:7week後 → OK
・2022/04/28追記:調子いいです!(さすがに、もう毎日は電源入れていません)
・2023/03/30追記:1年以上経ちましたが、まだ生きてます!!意外??
最後に・・・
今回、修理後の排熱対策として2連の冷却ファンを追加しましたが、この効果は絶大で、天板はほとんど熱を持たなくなりました。
私はこのアンプを含め、オーディオ機器のほとんどをオーディオラックに入れているのですが、今まで積極的な排熱対策はしていませんでした。
今回の故障は、メーカーのリコール対象ではあるものの、排熱不足による影響も多少は関係していたのではないか?と考えています。
今後、オーディオラック全体の排熱対策を行い、故障の未然防止を図っていきたいと思います。
以上、お付き合いいただきありがとうございました。
リフローにチャレンジされる場合は、くれぐれも自己責任でお願いします!
コメント
こんにちは。
近所のハードオフで兄弟機?の
TX-NA579がお安く置いてあったので、
似たような故障の症状のようなので、参考になりました。
AVアンプって消費電力とか、ガワが大きいので、導入に躊躇します。
ブログのアップありがとうございました!
コメントありがとうございます。
参考になって良かったです!
確かにオーディオ機器は導入に躊躇しますが、私の場合、廃棄するのはもっと躊躇します。
たとえ壊れていても・・・(笑)
当方は類似のTX-NA1009を入手し、同様の症状で調査中にブログに立ち寄りました。素晴らしい記事です。自分は仕事柄たまにパッチワークやヒートガンでの疑似リフロー等もしますが、ちょうべいさまの方法は間違ってないです。ちなみにNA1009はdebugmodeが無いようですが、継続調査ですね。。
ぽちっとしておきました。さま、コメントありがとうございます。
プロの方に「間違ってない」とコメントいただけて良かったです!
リフローしてから1年以上経過しましたが、まだ音は出ています。
素人作業なので、まさに奇跡としか言いようがありません。
TX-NA1009にはDebug Modeがないのですね。
どんな修理になるのか?とても気になります!